この記事の内容
- 薬剤師とは
- 薬剤師になる方法
- 薬剤師の年収
- 薬剤師の就職先と仕事内容
この記事の信頼性
- 東京大学大学院で博士号を取得
- 製薬企業の研究職として、新薬開発に従事
「お腹が痛い」「風邪ひいたかも」・・・
不調を感じた時、誰もが思い浮かべるのが「薬」です。
薬が製造され、私たちの手元にちゃんと届くのは、薬剤師と呼ばれる薬のプロがいてくれるおかげです。
この記事では、薬剤師について詳しく紹介します。
薬剤師とは
薬剤師とは
薬剤師とは
薬剤師を一言で表現すると「薬の専門家」です。
薬剤師の英語表記
Pharmacist になります。
「薬(剤)学、調剤学、薬局」を意味する "pharmacy" と「人」を意味する "-ist" が語源となっています。
薬剤師の任務
薬剤師の任務は、薬剤師法の第1条で次のように規定されています。
(薬剤師の任務)
第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
(引用元:薬剤師法第一条)
第1条で書かれている「調剤」とは、医師・歯科医師・獣医師から発行された処方箋に基づいて医薬品を交付することであり、薬剤師法第19条(下記)で規定されている通り、調剤は薬剤師の独占業務になります(病院や診療所の場合には例外があります)。
(調剤)
第十九条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。
一 患者又は現にその看護に当たつている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合
二 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第二十二条各号の場合又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第二十一条各号の場合
(引用元:薬剤師法第十九条)
このように、薬剤師の仕事は人々の健康や生命に関わることですので、社会的な責任は医療従事者と同様に大きく、薬剤師としての品格を保ち法令遵守を徹底することが求められています。
「薬剤師のキャリア」についてはコチラ
薬剤師の統計
薬剤師に関する統計情報について、厚生労働省の資料に基づいて紹介します。
薬剤師数の年次推移
令和2年(2020年)12月31日現在において、届出された全国の薬剤師数は321,982人となっていて、ここ30年間で約2倍に増えています。
その内、男性が124,242人、女性が197,740人と、男女比は約4:6で女性の方が多くなっています。
薬局・医療施設に従事する薬剤師
薬局・医療施設に従事する薬剤師数は250,585人で、全体(321,982人)の約8割になります。
薬剤師全体の男女比は4:6と言いましたが、薬局・医療施設に従事する薬剤師の男女比は約3:7となり、特に若い世代で女性の比率が高い傾向にあります。
このことから、男性の薬剤師は大学や民間企業(製薬企業など)に就職する傾向が高いことが伺えます。
近年、全国的に薬局が大幅に増加していて、それに伴って薬局に従事する薬剤師数も右肩上がりで増加しています。
薬剤師になる方法
薬剤師になるには、高校卒業後に次の3つのステップを踏まなくてはなりません。
- 大学の薬学部(6年制)に進学する
- 薬剤師国家試験に合格する
- 薬剤師免許を取得する
それぞれについて、解説します。
大学の薬学部(6年制)に進学する
薬剤師になるためには、薬剤師国家試験に合格する必要があります。
その受験資格は、薬剤師法によって「平成18年4月の大学入学者から、薬学の正規の課程のうち修業年限を6年とする課程を卒業した者」(経過措置あり)とされています。
すなわち、薬剤師国家試験の受験資格を得られる大学の課程に進学し、卒業要件を満たす(6年次の卒業見込みも含みます)ことが必要です。
薬学部のある大学について
2022年6月現在、薬学系の学部を設置している大学は全国に77校(79学部)あります。
その内訳は、国立が14校(14学部)、公立が5校(5学部)、私立が58校(60学部)となっています。
参考(外部リンク)
- 全国の薬科大学及び薬学部のある大学|公益財団法人日本薬剤師研修センター
- 薬科大学・薬学部一覧|一般社団法人薬学教育協議会
大学によって入試難易度(偏差値や倍率)、学費または薬剤師国家試験の合格率が違うので、自分に合った進学先を選ぶことが大切です。
「薬学部の選び方」を知りたい時に読むべき本
薬学部の入試難易度
それぞれの大学・学部で入試の倍率、受験科目や問題の傾向は異なるものの、偏差値は入試難易度の重要な指標となります。
参考(外部リンク)
- 国立大学薬学部 偏差値一覧ランキング|全国の薬学部大学ガイド「ヤッカレ」
- 私立大学 薬学部の偏差値一覧2022|全国の薬学部大学ガイド「ヤッカレ」
薬学部の学費
6年間のトータルの学費(入学金含む)は、国立が約350万円(一律)、私立が平均すると約1,200万円(約940~1,430万円)と、国立と私立で大きく異なります。
なお、公立の学費については国立とほぼ同額ですが、地元出身者の学費が20~30万円程度安くなる優遇措置があります。
大学別の薬剤師国家試験の合格率
薬剤師国家試験の合格率は、大学によって大きく異なります。
新卒者の合格率で見ると、国立ではほとんどが9割を超えてきますが、私立では大学間で大きな差があります。
参考(外部リンク)
薬剤師国家試験に合格する
薬剤師国家試験について解説します。
薬剤師国家試験とは
薬剤師法の第11条で「薬剤師として必要な知識及び技能の確認を目的とするものである」ことが定められた国家試験であり、厚生労働省の医薬・生活衛生局が所管しています。
詳しくは、厚生労働省のページをご覧ください。
参考(外部リンク)
- 薬剤師国家試験|厚生労働省
- 薬剤師国家試験のページ|厚生労働省
受験資格
薬剤師国家試験の受験資格は、薬剤師法の第15条によって「受験資格は6年制薬学課程を修めて卒業した者」に限定されています(卒業見込みの場合も含まれます)。
ただし、「薬剤師法の一部を改正する法律」における経過措置として、「2006年度から2017年度までに入学した4年制薬学教育課程の卒業生が大学院課程を修了した場合に厚生労働大臣が認めた者」については、受験資格が与えられます。
また、外国で日本の6年制薬学部に相当する教育課程を修了した人(受験資格の認定には条件が求められる場合があります)や、外国で薬剤師免許を取得した人は、日本での受験資格が与えられます。
試験の日程
薬剤師国家試験は、年に1回、毎年2月に2日間の日程で実施されます。
例年、次のように設定されることが多いようです(12月下旬頃、試験の会場や時間割が公表されます)。
- 試験日:2月の第3土曜日・日曜日
- 試験地:北海道、宮城県、東京都、石川県、愛知県、大阪府、広島県、徳島県及び福岡県
受験料
受験料は6,800円で、受験申込は所属する大学でまとめて行われます。
試験の内容
薬剤師国家試験は全部で345問出題され、次のような内容と配点になっています。
- 必須問題:90問 180点満点(1問2点)
- 一般問題(薬学理論問題):105問 210点満点(1問2点)
- 一般問題(薬学実践問題):150問 300点満点(1問2点)
参考(外部リンク)
- 薬剤師国家試験出題基準(PDF)|厚生労働省
合格基準(ボーダーライン)
薬剤師国家試験の合格基準は次の通りで、過去5年間の合格基準は、正答率63%前後で推移しています。
- 問題の難易を補正して得た総得点について、基準(平均点と標準偏差を用いた相対基準)により設定した得点以上
- 必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上
- 禁忌肢問題の選択数が2問以下
試験に合格すると、薬剤師国家試験合格証書が届きますので、大切に保管しておきましょう。
合格率
過去5年間(2018~2022年)の合格率は、約7割となっています(下表)。
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|
受験者数(人) | 13,579 | 14,376 | 14,311 | 14,031 | 14,124 |
合格者数(人) | 9,584 | 10,194 | 9,958 | 9,634 | 9,607 |
合格率(%) | 70.58 | 70.91 | 69.58 | 68.66 | 68.02 |
例年、合格率は新卒者(約85%)の方が既卒者(約40%)よりも高くなっています。
薬剤師免許を取得する
薬剤師国家試験に合格したら、薬剤師免許を取得する必要があります。
厚生労働省が管理する「薬剤師名簿」に登録されないと、薬剤師としての業務を行うことはできません。
免許の申請
薬剤師免許の申請に必要な書類は、次の通りです。
- 薬剤師免許申請書
※登録免許税として3万円の収入印紙(郵便局で購入可)が必要 - 診断書
※発行日翌日から起算して1月以内のもの
※「専門家による判断が必要」と申告された方は、追加書類が必要 - 戸籍抄(謄)本または住民票の写しまたは住民票記載事項証明書
※発行日翌日から起算して6月以内のもの
※住民票の写しまたは住民票記載事項証明書の場合は、本籍地都道府県の記載が必要 - 登録済証明書用はがき
※登録済証明書が必要な方のみ(「薬剤師免許証の交付」にて後述)
申請は、最寄りの保健所や都道府県庁で行うことができますが、都道府県によって受付方法等が異なるため、以下も参考にしてください。
参考(外部リンク)
- 薬剤師免許の申請手続き等について|厚生労働省
- 都道府県別薬剤師免許申請受付窓口一覧|厚生労働
薬剤師免許証の交付
提出した申請書類は、厚生労働省に送られて審査されます。
審査に通れば、薬剤師名簿に登録後、免許証が厚生労働省から都道府県庁へまとめて発送されるので、申請した窓口にて受け取ります。
申請から交付までの期間は、4~5か月程度です。
特に、薬剤師名簿に登録されてから免許証が交付までに約2ヶ月間要するため、希望する場合は、免許申請の際に登録済証明書用はがきも提出することで「登録済証明書」が発行されます。
参考(外部リンク)
- 薬剤師免許の申請手続き等について|厚生労働省
- 都道府県別薬剤師免許申請受付窓口一覧|厚生労働省
資格確認検索
薬剤師名簿に登録されると、厚生労働省の資格確認検索にて氏名がヒットするようになります。
参考(外部リンク)
- 資格確認検索|厚生労働省
薬剤師の年収
平均年収(男女計)
厚生労働省の調査によると、2021年の全国の薬剤師の平均年収は580.54万円でした(平均年齢:41.1歳)。
※「平均年収」は薬剤師(男女計)の「きまって支給する現金給与額」40.36(万円)× 12(ヶ月)+「年間賞与その他特別給与額」96.22(万円)にて算出しました。
参考(外部リンク)
- 賃金構造基本統計調査|政府統計の総合窓口 e-Stat
薬剤師の収入は、職場(仕事内容)や地域によって大きく異なります。
先ほどの厚生労働省の調査結果を「都道府県別」で見ると、首都圏よりも地方の方が平均年収が高い傾向にあります。
全国的に薬局が増加傾向にある中、地方では薬剤師不足が深刻化しており、好条件で募集しているケースも珍しくありません。
また、「職場別」で見ると、病院や調剤薬局よりも、民間企業(製薬会社など)の方が高収入を得られる可能性が高いです。
製薬会社では「薬剤師手当」等の待遇もあり、大手やベンチャー企業に勤めた場合は、30代で年収が1,000万円を超えるケースもあります。
薬に携わる業務は大きな責任を伴うだけに、年収はサラリーマンの平均(400万円代)よりもかなり高いですね。
また、薬剤師は転職によって大きく年収を上げる可能性がある職種です。
無料相談できる転職エージェントを利用して、年収UPの可能性を探ってみるのも良いと思います。
薬剤師の就職先や仕事内容
薬剤師の就職先や仕事内容は多種多様で、代表的なものを紹介します。
薬局
薬局では、医師が発行した処方箋による調剤、薬の正しい使い方や服薬指導、薬の飲み合わせのチェックなどを行っています。
また、カルテや「おくすり手帳」に基づいて、患者さんごとの薬歴管理もしています。
また、一般用医薬品を販売する際には、症状に応じて薬を紹介したり、医療機関の受診を勧めるなど、セルフメディケーションのサポートもしています。
このように、薬局の薬剤師は医療の一部を担うため、幅広い専門知識や患者とのコミュニケーション能力が求められます。
病院・診療所
病院や診療所では、外来患者や入院患者を対象として、薬の調剤、薬の在庫管理・品質管理、注射薬や点滴の調製・管理、服薬指導、薬歴管理、臨床検査などを行います。
薬局と同様、病院や診療所でも医療の一部を担い、医療スタッフらとの連携をとりながら患者の治療にあたります。
また、薬を有効・安全に使用するために、血液中の薬物濃度を測定し、患者ごとに適した投与量や投与方法を決定する「薬物治療モニタリング(TDM)」や、薬の吸収や副作用による食欲不振を把握し、その改善策を医師等に助言し、栄養剤について患者・家族に説明・指導する、「栄養サポートチーム(NST)」としての役割も担っています。
このように、病院や診療所の薬剤師は、医療の最前線で活躍できるというやりがいを感じると同時に、夜勤もあったりして「収入が仕事量に見合ってない・・・」と感じる方もいます。
激務が負担に感じるようであれば、ライフワークバランスも考慮して転職を考えてみるのもいいかもしれません。
また、薬局や病院・診療所の薬剤師が教育委員会等から委任されて、学校で保健の仕事をすることもあります。
校舎の衛生管理、プール水や水道の検査、教室の空気・温度・湿度・照度・騒音などの検査を定期的に行い、その検査結果を考察し、必要に応じて学校に指導・助言します。
児童生徒などを対象に、薬の正しい使い方や薬物乱用防止、たばこの害、アルコールの害などについての授業を行うこともあります。
民間企業
製薬会社や化粧品会社などの民間企業では、製品の研究・開発、薬事申請、品質管理、情報の収集・管理を行います。
自社で製造・販売している製品について、消費者、医師・看護師、(薬局や病院の)薬剤師からの問い合わせに応じて、専門的な情報を提供しています。
製薬企業において、薬剤師資格を活かせる職種には、次のようなものがあります。
- 研究・開発(R&D):新薬の研究・開発を行います。
- 品質管理(QC):分析業務を通じて、医薬品の品質規格を管理します。
- 品質保証(QA):市場の製品に責任を持つ(保証する)業務を担います。
- 治験コーディネーター(CRC):治験施設支援機関(SMO)での治験業務をサポートします。
- 臨床開発モニター(CRA):製薬会社や医薬品開発業務受託機関(CRO)で治験を監視・調査します。
- 医薬品情報担当者(MR):病院や薬局に製品の導入を斡旋(営業)します。
- 医薬品卸販売担当者(MS):医薬品卸会社での営業
また、病院や薬局に対して薬を販売する問屋(卸売販売会社)に勤める薬剤師もいます。
薬の保管・管理を行い、病院や薬局からの問い合わせに対応して専門的な情報を提供しています。
行政
国、県庁、保健所などの行政機関では、薬事監視員として、医薬品等の表示・保管・適正使用について調査、指導、監視をしたり、衛生研究所などの公立研究機関では、試験検査、医薬品研究などを行っています。
市役所や県庁職員の募集において薬剤師枠が設けられているのはそのためです。
警察や自衛隊で、麻薬取締官や自衛隊薬務官として働いているのも行政薬剤師です。
まとめ
この記事のまとめ
- 薬剤師(Pharmacist)は国家資格を持つ「薬の専門家」で、年々増加しており、約8割が薬局・医療施設に従事している。
- 薬剤師になるには、高卒後に6年制の薬学部に進学して、合格率が約7割の薬剤師国家試験に合格し、薬剤師免許を取得する必要がある。
- 職場や仕事内容によって異なるが、薬剤師の平均年収は約580万円であり、民間企業では年収1,000万円を超えるケースもある。
- 薬剤師の仕事内容は多種多様であり、医療機関、行政または民間企業など、薬剤師にしかできない仕事がある。